霧(きり)がじめじめ降(ふ)っていた。 諒安(りょうあん)は、その霧の底(そこ)をひとり、険(けわ)しい山谷の、刻(きざ)みを渉(わた)って行きました。 沓(くつ)の底を半分踏(ふ)み抜(ぬ)いてしまいながらそのいちばん高い処(ところ)からいちばん暗(くら)い深(ふか)いところへまたその谷の底から霧に吸(す)いこまれた次(つぎ)の峯(みね)へと一生けんめい伝(つた)って行きまし