かけはしのき
かけはしの記

冒頭文

浮世の病ひ頭に上りては哲学の研究も惑病同源の理を示さず。行脚雲水の望みに心空になりては俗界の草根木皮、画にかいた白雲青山ほどにきかぬもあさまし。腰を屈めての辛苦艱難も世を逃れての自由気儘も固より同じ煩悩の意馬心猿と知らぬが仏の御力を杖にたのみていろ〳〵と病の足もと覚束なく草鞋の緒も結びあへでいそぎ都を立ちいでぬ。 五月雨に菅の笠ぬぐ別れ哉 知己の諸子はなむけの詩文たまはる。

文字遣い

新字旧仮名

初出

「日本」日本新聞社、1892(明治25)年5月27日~6月

底本

  • 現代日本紀行文学全集 中部日本編
  • ほるぷ出版
  • 1976(昭和51)年8月1日