にっき 05 せんきゅうひゃくじゅうきゅうねん(たいしょうはちねん) |
日記 05 一九一九年(大正八年) |
冒頭文
十二月四日 嵐のあとを追って、船が進むためか、噂に聞いた程船はあれない。 ビクトリアを出て一夜立った今日も空は一面に明るく、水浅黄に晴れ渡って、船腹に当って散る波は、深い藍色の波頭に瞬間の美しい金色の虹をたてる。 寒さに身を引きしめながら、何かたのしい、何か心のわくわくする気分で身を揺って居るように見える海は安逸な旅客をのせた小船をかこんで、さも愉快そうに見える。
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 宮本百合子全集 第二十三巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年5月20日