しさくしゃのにっき
思索者の日記

冒頭文

一月五日 朝起きると、ひどく咳が出る。烟草で咽喉を痛めているせいだ。おそく起きた朝ほど咳がひどいのは、その前夜おそくまで仕事をして烟草の量を過した兆しである。私の咳はかなり有名で、近所の子供はコンコンのおじさんと呼んでいる。老人臭くていけないが、烟草の量はなかなか減らないで困る。私が外出先から帰って来るときには、家に入らない前に咳でわかる、と亡妻はいっていたし、私が在宅か否かは咳が聞えるかど

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1939(昭和14)年2月号

底本

  • 現代日本思想大系33
  • 筑摩書房
  • 1966(昭和41)年5月30日