(一) 彼は木製玩具の様に、何事も考へずに帰途に着いた。 地面は光つてゐて、馬糞が転げて凍みついてゐた。 いくつか街角をまがり、広い道路に出たり、狭い道路に出たりしてゐるうちに、彼の下宿豊明館の黒い低い塀が見えた。 彼は不意にぎくりと咽喉を割かれたやうに感じた。 ——ちえつ、俺の部屋の置物の位置が、少しでも動かされてゐたら承知が出来ないぞ。