みかん
蜜柑

冒頭文

一 お婆さんはもう我慢がしきれなくなって来た。けれども彼女は、しばらくの間を薄い襤褸(ぼろ)布団の中で、ただ、もじもじしていた。 厚い板戸を隔てた台所の囲炉裏端(いろりばた)では、誰か客があるらしく、しきりと太い話し声がやりとりされている。折々大きな笑い声も洩れて来る。慥(たし)かに誰かが来ているらしい。お婆さんは布団からそおうっと顔を出して見た。併しお婆さんは、また躊躇(ちゅうち

文字遣い

新字新仮名

初出

「随筆」1927(昭和2)年2月号

底本

  • 佐左木俊郎選集
  • 英宝社
  • 1984(昭和59)年4月14日