かのうせいのぶんがく
可能性の文学

冒頭文

坂田三吉が死んだ。今年の七月、享年七十七歳であった。大阪には異色ある人物は多いが、もはや坂田三吉のような風変りな人物は出ないであろう。奇行、珍癖の横紙破りが多い将棋(しょうぎ)界でも、坂田は最後の人ではあるまいか。 坂田は無学文盲、棋譜も読めず、封じ手の字も書けず、師匠もなく、我流の一流をあみ出して、型に捉えられぬ関西将棋の中でも最も型破りの「坂田将棋」は天衣無縫の棋風として一世を風靡(

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1946(昭和21)年12月号

底本

  • 夫婦善哉
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1999(平成11)年5月10日