てんごくのきろく |
| 天国の記録 |
冒頭文
彼女等はかうして、その血と肉とを搾り盡された 一 三月の末日、空(から)つ風がほこりの渦を卷き上げる夕方——。 溝(どぶ)の匂ひと、汚物(をぶつ)の臭氣と、腐つた人肉の匂ひともいふべき惡臭とがもつれ合つて吹き流れてゐる、六尺幅の路地(ろぢ)々々。その中を、海底の藻草のやうによれ〳〵と聲もなくうろついてゐる幾千の漁色(ぎよしよく)亡者。 一つの亡者が過ぎて行くと、その兩側の家の小窓から
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「中央公論」1930(昭和5)年7月
底本
- 茨城近代文学選集Ⅲ
- 常陽新聞社
- 1978(昭和53)年3月25日