わがやのらくえん
我が家の楽園

冒頭文

我が家の楽園 一 春雨の降る四月の暗い日曜日の朝、渋谷の奥にあるバラックの玄関の土間に、接収解除通知のハガキが、音もなく投げこまれた。 自分の家には、毛色(けいろ)のちがう名も知らぬひとがはいりこみ、当の持主の家族は、しがない間借りか借家で、不自由しながらゴタゴタしているのは、戦争に負けたせいだと思っても、あきらめきれるものではなかったろう。収用にかかっていた物件は、すべて講和発効と同時に

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール読物」1953(昭和28)年1月〜6月

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅴ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年6月30日