あごじゅうろうとりものちょう 17 はつはるたぬきかっせん
顎十郎捕物帳 17 初春狸合戦

冒頭文

あぶれ駕籠 「やけに吹きっつぁらしますね」 「うるるる、これはたまらん。睾丸(きんたま)が凍(こご)えるわ」 師走(しわす)からこのかた湿りがなく、春とはほんの名ばかり、筑波(つくば)から来る名代の空(から)ッ風が、夕方になると艮(うしとら)へまわり、梢(こずえ)おろしに枯葉を巻き土煙(つちけむり)をあげ、斬りつけるようにビュウと吹き通る。いやもう骨の髄(ずい)まで凍えそう。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅳ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年3月31日