あごじゅうろうとりものちょう 05 ねずみ
顎十郎捕物帳 05 ねずみ

冒頭文

藤波友衛(ふじなみともえ) 坊主畳を敷いた長二十畳で、部屋のまんなかに大きな囲炉裏が切ってある。磨出(とぎだ)しの檜の羽目板に、朱房のついた十手や捕繩がズラリとかかって、なかなか物々しい。 数寄屋橋内(すきやばしうち)、南番所御用部屋。まだ朝が早いので、下ッ引の数もほんの三四人、炉端にとぐろを巻いて、無駄ッ話をしているところへ、不機嫌な突袖(つきそで)でズイと入って来た卅二三の男。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅳ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年3月31日