あごじゅうろうとりものちょう 03 みやこどり
顎十郎捕物帳 03 都鳥

冒頭文

馬の尻尾(しっぽ) 「はて、いい天気だの」 紙魚(しみ)くいだらけの古帳面を、部屋いっぱいにとりちらしたなかで、乾割(ひわ)れた、蠅のくそだらけの床柱に凭れ、ふところから手の先だけを出し、馬鹿長い顎の先をつまみながら、のんびりと空を見あげている。 ぼろ畳の上に、もったいないような陽ざしがいっぱいにさしこみ、物干のおしめに陽炎(かげろう)がたっている。 あすは雛の節句で、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅳ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年3月31日