あごじゅうろうとりものちょう 01 すてくぼう
顎十郎捕物帳 01 捨公方

冒頭文

不知森(しらずのもり) もう秋も深い十月の中旬(なかば)。 年代記ものの黒羽二重(くろはぶたえ)の素袷(すあわせ)に剥げちょろ鞘の両刀を鐺(こじり)さがりに落しこみ、冷飯(ひやめし)草履で街道の土を舞いあげながら、まるで風呂屋へでも行くような暢気な恰好で通りかかった浪人体。船橋街道、八幡の不知森のほど近く。 生得(しょうとく)、いっこう纒まりのつかぬ風来坊。二十八にもなる

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅳ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年3月31日