るそんのつぼ |
| 呂宋の壺 |
冒頭文
一 慶長のころ、鹿児島揖宿(いぶすき)郡、山川の津(つ)に、薩摩藩の御朱印船を預り、南蛮貿易の御用をつとめる大迫(おおさこ)吉之丞という海商がいた。 慶長十六年の六月、隠居して惟新(いしん)といっていた島津義弘の命令で、はるばる呂宋(ルソン)(フィリッピン)まで茶壺を探しに出かけた。そのとき惟新は、なにかと便宜があろうから、吉利支丹になれといった。吉之丞は長崎で洗礼を受けて心にもなき信者にな
文字遣い
新字新仮名
初出
「オール讀物」1957(昭和32)年3月号
底本
- 久生十蘭全集 Ⅱ
- 三一書房
- 1970(昭和45)年1月31日