とうくろうのしま
藤九郎の島

冒頭文

一 享保四年の秋、遠州新居(あらい)の筒山船(つつやまぶね)に船頭左太夫以下、楫取(かじとり)、水夫(かこ)十二人が乗組んで南部へ米を運んだ帰り、十一月末、運賃材木を積んで宮古港を出帆、九十九里浜の沖合まで来たところで、にわかの時化(しけ)に遭った。海面(うなづら)いちめんに水霧がたち、日暮れ方のような暗さになって、房総の山々のありかさえ見わけのつかぬうちに、雷雨とともに、十丈もあろうか

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」1952(昭和27)年9月

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅱ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年1月31日