くものこみち
雲の小径

冒頭文

一 時間からいうと、伊勢湾の上あたりを飛んでいるはずだが、窓という窓が密度の高いすわり雲に眼隠しされているので、所在の感じが曖昧である。 大阪を飛びだすと、すぐ雲霧に包みこまれ、それからもう一時間以上も、模糊(もこ)とした灰白色の空間を彷徨している。はじめのころは、濛気(もうき)の幕によろめくような機影を曳きながら飛んでいたが、おいおい高度をあげるにつれて、四方からコクのある雲がおしかさなっ

文字遣い

新字新仮名

初出

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅱ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年1月31日