かわなみ
川波

冒頭文

第二次大戦がはじまった年の七月の午後、大電流部門の発送関係の器材の受渡しをするため、近くドイツに行くことになっていた大電工業の和田宇一郎が、会社の帰りに並木通りの「アラスカ」のバアへ寄ると、そこで思いがけなく豊川治兵衛に行きあった。 「よう、いつ帰ったんだ」「つい、この十日ほど前に……用務出張でね、またすぐひきかえすんだ」「おれも急に出かけることになったんだが、戦争ははじまりそうか」「それはもう

文字遣い

新字新仮名

初出

「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅱ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年1月31日