ひどいけむり
ひどい煙

冒頭文

一 飯倉の西にあたる麻布勝手ヶ原は、太田道灌が江戸から兵を出すとき、いつもここで武者揃えをしたよし、風土記(ふどき)に見えている。大猷院殿(たいゆういんでん)の寛永の末ごろは、草ばかり蓬々とした、うらさびしい場所で、赤羽の辻、心光院の近くまで小山田(おやまだ)がつづき、三田の切通し寄り、菱(ひし)や河骨(こうぼね)にとじられた南下(さが)りの沼のまわりに、萱葺きの農家がチラホラ見えるほか、眼をさ

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」1955(昭和30)年7月号

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅱ
  • 三一書房
  • 1970(昭和45)年1月31日