いきのくにかつもとにて
壱岐国勝本にて

冒頭文

地圖を見ても直ぐ分る。對州(つしま)は大きな蜈蜙(むかで)が穴から出かけたやうでもあるし又やどかりが體を突出したやうでもあつて、山許りだから丁度毛だらけのやうに見える。それが壹州(いき)になると靜かな水の上に溶けた蝋がぽつちりと落ちたやうな形である。さうしてさう高い山がないから地圖で見ても滑か相である。それが一昨日(おとゝい)と昨日と空氣が冴えたので、それでなくても景色のいゝ海岸が如何にも爽快であ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日