ちょうのえ |
| 蝶の絵 |
冒頭文
一 終戦から四年となると、復員祝いも間のぬけた感じだったが、山川花世(はなよ)の帰還が思いがけなかったせいか、いろいろな顔が集まった。主人役の伊沢元仏蘭西領事と山川の教え子だった伊沢の細君の安芸(あき)子、須田理学士、貿易再開で近くリヨンに行く森川組の笠原忠兵衛、シンガポールの戦犯裁判で、弁護団側のマレー語の通訳をしていた岩城画伯などがやってきたが、定刻をすぎても、当の山川はあらわれない。
文字遣い
新字新仮名
初出
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
底本
- 久生十蘭全集 Ⅱ
- 三一書房
- 1970(昭和45)年1月31日