まと
魔都

冒頭文

第一回 一、古川加十、月を見る事 並に美人の嬌態の事 甲戌(きのえいぬ)の歳も押詰って、今日は一年のドンじりという極月(ごくげつ)の卅一日、電飾眩ゆい東京会館の大玄関から、一種慨然たる面持で立ち現われて来た一人の人物。鷲(わし)掴みにしたキャラコの手巾(ハンカチ)でやけに鼻面を引っこすり引っこすり、大幅に車寄の石段を踏み降りると、野暮な足音を舗道に響かせなが

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

底本

  • 久生十蘭全集 Ⅰ
  • 三一書房
  • 1969(昭和44)年11月30日