ばんぎく
晩菊

冒頭文

夕方、五時頃うかゞひますと云ふ電話であつたので、きんは、一年ぶりにねえ、まァ、そんなものですかと云つた心持ちで、電話を離れて時計を見ると、まだ五時には二時間ばかり間がある。まづその間に、何よりも風呂へ行つておかなければならないと、女中に早目な、夕食の用意をさせておいて、きんは急いで風呂へ行つた。別れたあの時よりも若やいでゐなければならない。けつして自分の老いを感じさせては敗北だと、きんはゆつくりと

文字遣い

新字旧仮名

初出

「別冊文芸春秋」文藝春秋、1948(昭和23)年11月号

底本

  • 短篇小説名作選
  • 現代企画室
  • 1981(昭和56)年4月15日