とよたけろしょう
豊竹呂昇

冒頭文

私は今朝(けさ)の目覚めに戸の透間(すきま)からさす朝の光りを眺めて、早く鶯(うぐいす)が夢をゆすりに訪れて来てくれるようになればよいと春暁の心地よさを思った。如月(きさらぎ)は名ばかりで霜柱は心まで氷らせるように土をもちあげ、軒端(のきば)に釣った栗山桶(くりやまおけ)からは冷たそうな氷柱(つらら)がさがっている。崖(がけ)の篠笹(しのざさ)にからむ草の赤い実をあさりながら小禽(ことり)は囀(さ

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人画報」1919(大正8)年3月

底本

  • 新編 近代美人伝 (上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年11月18日