たざわいなぶね
田沢稲船

冒頭文

一 赤と黄と、緑青(ろくしょう)が、白を溶いた絵の具皿のなかで、流れあって、虹(にじ)のように見えたり、彩雲(あやぐも)のように混じたりするのを、 「あら、これ——」 絵の具皿を持っていた娘は呼んだ。 「山田美妙斎(びみょうさい)の『蝴蝶(こちょう)』のようだわ。」 乙姫(おとひめ)さんの竜(たつ)の都からくる春の潮の、海洋(わたつみ)の霞(かすみ)が娘の目に来た。

文字遣い

新字新仮名

初出

「東京朝日新聞」1937(昭和12)年3月27日~4月21日

底本

  • 新編 近代美人伝 (下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年12月16日