たけもとあやのすけ
竹本綾之助

冒頭文

泰平三百年の徳川幕府の時代ほど、義理人情というものを道徳の第一においたことはない。忠の一字をおいては何事にも義理で処決した。武家にあっては武士道の義理、市井(しせい)の人には世間の義理である。義理のためには親子の間の愛情も、恋人同士の迸(ほとば)しるような愛の奔流も抑圧してきた時代である。その人情の極致と破綻(はたん)と、抑(おさ)えつけられた胸の炎と、機微な、人間の道の錯誤を語りだしたのが義太夫

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人画報」1918(大正7)年4月

底本

  • 新編 近代美人伝 (上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年11月18日