しゅげんしゃはまこ
朱絃舎浜子

冒頭文

一 木橋(もくきょう)の相生橋(あいおいばし)に潮がさしてくると、座敷ごと浮きあがって見えて、この家だけが、新佃島(しま)全体ででもあるような感じに、庭の芝草までが青んで生々してくる、大川口(おおかわぐち)の水ぎわに近い家の初夏だった。 「ここが好(え)いぞ、いや、敷(しき)ものはいらん、いらん。」 広い室内の隅(すみ)の方へ、背後(うしろ)に三角の空(くう)を残して、ドカリと、

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1938(昭和13)年5~7月

底本

  • 新編 近代美人伝 (下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年12月16日