くじょうたけこ
九条武子

冒頭文

一 人間は悲しい。 率直にいえば、それだけでつきる。九条武子と表題を書いたままで、幾日もなんにも書けない。白いダリヤが一輪、目にうかんできて、いつまでたっても、一字もかけない。 遠くはなれた存在だった、ずっと前に書いたものには、気高(けだか)き人とか麗人とか、ありきたりの、誰しもがいうような褒(ほ)めことばを、ならべただけですんでいたが、そんなお座なりをいうのはいやだ。

文字遣い

新字新仮名

初出

「近代美人伝」サイレン社、1936(昭和11)年2月

底本

  • 新編 近代美人伝 (下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年12月16日