一 家の中(ちう)二階(かい)は川に臨んで居た。其処(そこ)にこれから発(た)たうとする一家族が船の準備の出来る間を集つて待つて居た。七月の暑い日影(ひかげ)は岸の竹藪に偏(かたよ)つて流るゝ碧(あを)い瀬にキラキラと照つた。 涼しい樹陰(こかげ)に五六艘の和船(わせん)が集つて碇泊して居るさまが絵のやうに下に見えた。帆を舟一杯にひろげて干して居るものもあれば、陸(をか)から一生懸