えぎきんきんじょし
江木欣々女史

冒頭文

一 大正五年の三月二日、あたしは神田淡路町(かんだあわじちょう)の江木家(えぎけ)の古風な黒い門をくぐっていた。 旧幕の、武家邸(ぶけやしき)の門を、そのままであろうと思われる黒い門は、それより二十年も前からわたしは見馴(な)れているのだった。わたしは日本橋区の通油町(とおりあぶらちょう)というところから神田小川町(おがわまち)の竹柏園(ちくはくえん)へ稽古(けいこ)に通うのに、こ

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1938(昭和13)年4月

底本

  • 新編 近代美人伝 (下)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年12月16日