いっせいおこい
一世お鯉

冒頭文

一 「そりゃお妾(めかけ)のすることじゃないや、みんな本妻のすることだ。姉さんのしたことは本妻のすることなのだ」 六代目菊五郎のその銹(さび)た声が室の外まで聞える。 真夏の夕暮、室々のへだての襖(ふすま)は取りはらわれて、それぞれのところに御簾(みす)や几帳(きちょう)めいた軽羅(うすもの)が垂(た)らしてあるばかりで、日常(つね)の居間(いま)まで、広々と押開かれてあった。

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人画報」1921(大正10)年1~3月

底本

  • 新編 近代美人伝 (上)
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年11月18日