いちかわくめはち |
市川九女八 |
冒頭文
一 若い女が、キャッと声を立てて、バタバタと、草履(ぞうり)を蹴(け)とばして、楽屋の入口の間へ駈(か)けこんだが、身を縮めて壁にくっついていると、 「どうしたんだ、見っともねえ。」 部屋のあるじは苦々(にがにが)しげにいった。渋い、透(とお)った声だ。 奈落の暗闇(くらやみ)で、男に抱きつかれたといったら、も一度此処(ここ)でも、肝(きも)を冷されるほど叱(しか)られ
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京朝日新聞」1937(昭和12)年6月23~29日
底本
- 新編 近代美人伝 (下)
- 岩波文庫、岩波書店
- 1985(昭和60)年12月16日