ボギモヴォ村、一八九一年 一 朝の八時といえば、士官や役人や避暑客連中が蒸暑かった前夜の汗を落しに海にひと浸(つか)りして、やがてお茶かコーヒーでも飲みに茶亭(パヴィリオン)へよる時刻である。イヷン・アンドレーイチ・ラエーフスキイという二十八ほどの、痩せぎすなブロンドの青年が、大蔵省の制帽をかぶり、スリッパをひっかけて一浴びしに来てみると、もう浜には知合いの連中が大分あつまっていた