上 「こりゃどうも厄介(やっかい)だねえ。」 観音丸(かんのんまる)の船員は累々(やつやつ)しき盲翁(めくらおやじ)の手を執(と)りて、艀(はしけ)より本船に扶乗(たすけの)する時、かくは呟(つぶや)きぬ。 この「厄介(やっかい)」とともに送られたる五七人の乗客を載了(のせおわ)りて、観音丸(かんのんまる)は徐々(じょじょ)として進行せり。 時に九月二日午前七時、伏木港