大正十一年六月一日目がさめた時、電燈は消えてゐてあたりは仄薄暗かった。お菊さんが心地よげにすや〳〵と寝息をたてゝゐた。今日は六月一日、一年十二ヶ月の中第六月目の端緒の日だ。私は思った。此の月は、此の年は、私は一たい何を為すべきであらう……昨日と同じに机にむかってペンを執る、白い紙に青いインクで蚯蚓の這い跡の様な文字をしるす……たゞそれだけ。たゞそれだけの事が何になるのか。私の為、私の同族祖先の為、