わかめ
若芽

冒頭文

(一) ぬつくりとした空気の中に、白い布を被せた寝棺が人々の眼に痛ましく写つた。紫檀の机の上に置かれた青銅の線香立には白い灰が堆高く積つて、夢の様に白い煙が立ち上つて抹香くさい香が庭前の青葉の間に流れ流れした。 『雨戸を繰りませうか。』 今迄だまつて柱に依りかゝつて居た男が一座を見渡してかう言つた。其して一尺許りすいて居た一枚の雨戸を静かに開けた。電燈の光が広々とさあつと外にあふ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「潮 第二巻第一号」1914(大正3)年12月

底本

  • 石川近代文学全集4
  • 石川近代文学館
  • 1996(平成8)年3月1日