ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)

冒頭文

秋が来たんだ 十月×日 一尺四方の四角な天窓を眺めて、始めて紫色に澄んだ空を見た。 秋が来たんだ。コック部屋で御飯を食べながら私は遠い田舎の秋をどんなにか恋しく懐しく思った。 秋はいゝな……。 今日も一人の女が来た。マシマロのように白っぽい一寸面白そうな女。厭になってしまう、なぜか人が恋いしい。 そのくせ、どの客の顔も一つの商品に見えて、

文字遣い

新字新仮名

初出

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

底本

  • 作家の自伝17 林芙美子
  • 日本図書センター
  • 1994(平成6)年10月25日