ちちのにおい
乳の匂ひ

冒頭文

……その頃、伯父は四条の大橋際に宿屋と薬屋とをやつてゐた。祇園(ぎをん)の方から鴨川を西に渡つて、右へ先斗町(ぽんとちやう)へ入らうとする向ひ角の三階家で、二階と三階を宿屋に使ひ、下の、四条通りに面した方に薬屋を開いてゐたのだつた。そして宿屋の方を浪華亭(なにはてい)といひ、薬屋の方を浪華堂と呼んでゐた。 私は十三歳の夏、この伯父を頼つて京都へ行つたのだつた。中学へでも入れて貰ふつもりで

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 現代日本文學全集 34
  • 筑摩書房
  • 1955(昭和30)年9月5日