おぼえがき
覚書

冒頭文

泉鏡花先生は、天賦の才能を以て、極めて特異な思想感情を、あますところなく文字に表現し盡しておかくれになつた。凡そいかなる作家と雖も、一作を成すや直に、何か表現し切れないものゝ胸に殘つてゐる、あと味の惡さに惱むのが普通だらうが、泉先生にはそれが無かつたらしい。或は、先生自身にはかゝる惱があつたかもしれないが、少なくともその作品には、さういふ痕跡を止め無い。作者と作品の間に過不足がない。讀者の側で何か

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「圖書」1940(昭和15)年3月号

底本

  • 鏡花全集 卷二 月報2
  • 岩波書店
  • 1942(昭和17)年9月30日