るてん
流転

冒頭文

「蕗子(ふきこ)が殺されたのは、その晩の僅かな時間のあいだでした……。 私が訣別(わかれ)の詞(ことば)を書いた手紙をもって戸外へ出ると、そこは彼女の家の裏まで田圃(たんぼ)つづきです。彼女の居間に灯のついていることが、幾度か窓の下へ近よってゆくことを逡巡(しりごみ)させましたが、ようやく思切って忍足に障子の際までゆくと、幸いその破れから内部を覗くことができました。 母に死別(しに

文字遣い

新字新仮名

初出

「探偵趣味」1927(昭和2)年8月号

底本

  • 「探偵趣味」傑作選 幻の探偵雑誌2
  • 光文社文庫、光文社
  • 2000(平成12)年4月20日