せんびきざるのつば |
千匹猿の鍔 |
冒頭文
大正十二年九月一日、高橋秀臣君は埼玉県下へ遊説に往っていたが、突如として起った大震災の騒ぎに、翌二日倉皇(そうこう)として神田錦町の自宅へ帰ったが、四辺(あたり)は一面の焼野原。やっとのことで家族の行方を捜し当たが、家族は着のみ着のままで、家財道具などは何一つ持ち出していなかった。無論家宝として高橋君の愛玩(あいがん)措(お)かざる光広(みつひろ)作(さく)千匹猿(せんびきざる)の鍔(つば)もどこ
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典
- 学研M文庫、学習研究社
- 2003(平成15)年10月22日