うらみのさざえ
恨みの蠑螺

冒頭文

一 文政四年の四月は相州(そうしゅう)江の島弁財天の開帳(かいちょう)で、島は勿論、藤沢から片瀬にかよう路々もおびただしい繁昌を見せていた。 その藤沢の宿(しゅく)の南側、ここから街道を切れて、石亀川の渡しを越えて片瀬へ出るのが、その当時の江の島参詣の路順であるので、その途中には開帳を当て込みの休み茶屋が幾軒も店をならべていた。もとより臨時の掛茶屋であるから、葭簀(よしず)がこいの

文字遣い

新字新仮名

初出

「富士」1934(昭和9)年10月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日