うきよしんぶんのはなし
有喜世新聞の話

冒頭文

一 S君は語る。 明治十五年——たしか五月ごろの事と記憶しているが、その当時発行の有喜世新聞にこういう雑報が掲載されていた。 京橋築地の土佐堀では小鯔(いな)が多く捕れるというので、ある大工が夜網(よあみ)に行くと、すばらしい大鯔(おおぼら)が網にかかった。それを近所の料理屋の寿美屋の料理番が七十五銭で買い取って、あくる朝すぐに包丁を入れると、その鯔の腹のなかから手紙の状

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝倶楽部」1925(大正14)年8月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日