あな

冒頭文

一 Y君は語る。 明治十年、西南戦争の頃には、わたしの家(うち)は芝の高輪(たかなわ)にあった。わたしの家といったところで、わたしはまだ生まれたばかりの赤ん坊であったから何んにも知ろう筈はない。これは後日になって姉の話を聞いたのであるから、多少のすじみちは間違っているかも知れないが、大体の話はまずこうである——。 今日(こんにち)では高輪のあたりも開け切って、ほとんど昔の

文字遣い

新字新仮名

初出

「写真報知」1925(大正14)年9月

底本

  • 蜘蛛の夢
  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年4月20日