マレーはいゆうのし
マレー俳優の死

冒頭文

「海老の天ぷら、菜(な)のひたしもの、蠣(かき)鍋、奴(やっこ)豆腐、えびと鞘豌豆(さやえんどう)の茶碗もり——こういう料理をテーブルの上にならべられた時には、僕もまったく故郷へ帰ったような心持がしましたよ。」と、N君は笑いながら話し出した。 N君は南洋貿易の用件を帯びて、シンガポールからスマトラの方面を一周して、半年ぶりで先月帰朝(きちょう)したのである。その旅行中に何かおもしろい話はなか

文字遣い

新字新仮名

初出

「近代異妖編」春陽堂、1926(大正15)年10月

底本

  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年8月20日