ふかみふじんのし
深見夫人の死

冒頭文

一 実業家深見家の夫人多代子が一月下旬のある夜に、熱海の海岸から投身自殺を遂げたという新聞記事が世間を騒がした。 多代子はことし三十七歳であるが、実際の年よりも余ほど若くみえるといわれるほどの美しい婦人で、種々の婦人事業や貧民救済事業にもほとんど献身的に働いていることは何人(なんぴと)も知っている。その主人公の深見氏もまた実業界において稀に見るの人格者として知られていて、財産もあり

文字遣い

新字新仮名

初出

「日曜報知」1930(昭和5)年10月

底本

  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年8月20日