こい

冒頭文

一 日清戦争の終った年というと、かなり遠い昔になる。もちろん私のまだ若い時の話である。夏の日の午後、五、六人づれで向島へ遊びに行った。そのころ千住の大橋ぎわにいい川魚料理の店があるというので、夕飯をそこで食うことにして、日の暮れる頃に千住へ廻った。 広くはないが古雅な構えで、私たちは中(ちゅう)二階の六畳の座敷へ通されて、涼しい風に吹かれながら膳にむかった。わたしは下戸であるのでラ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 鎧櫃の血
  • 光文社文庫、光文社
  • 1988(昭和63)年5月20日