うなぎにのろわれたおとこ
鰻に呪われた男

冒頭文

一 「わたくしはこの温泉へ三十七年つづけて参ります。いろいろの都合で宿は二度ほど換えましたが、ともかくも毎年かならず一度はまいります。この宿へは震災前から十四年ほど続けて来ております。」 痩形(やせがた)で上品な田宮夫人はつつましやかに話し出した。田宮夫人がこの温泉宿の長い馴染客であることは、私もかねて知っていた。実は夫人の甥にあたる某大学生が日頃わたしの家へ出入りしている関係上、Uの温泉

文字遣い

新字新仮名

初出

「オール讀物」1931(昭和6)年10月

底本

  • 光文社文庫、光文社
  • 1990(平成2)年8月20日