きしんひきしん (じつぶん) |
鬼心非鬼心 (実聞) |
冒頭文
悲しき事の、さても世には多きものかな、われは今読者と共に、しばらく空想と虚栄の幻影を離れて、まことにありし一悲劇を語るを聞かむ。 語るものはわがこの夏霎時(しばらく)の仮の宿(やどり)とたのみし家の隣に住みし按摩(あんま)男なり。ありし事がらは、そがまうへなる禅寺の墓地にして、頃は去歳(こぞ)の初秋とか言へり。 二本榎(にほんえのき)に朝夕の烟も細き一かまどあり、主人(あるじ)
文字遣い
新字旧仮名
初出
「女學雜誌 三三一號」女學雜誌社、1892(明治25)年11月5日
底本
- 現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集
- 筑摩書房
- 1969(昭和44)年6月5日