ふたすじのち |
二筋の血 |
冒頭文
夢の様な幼少の時の追憶、喜びも悲みも罪のない事許り、それからそれと朧気(おぼろげ)に続いて、今になつては、皆、仄かな哀感の霞を隔てゝ麗(うらら)かな子供芝居でも見る様に懐かしいのであるが、其中で、十五六年後の今日でも猶、鮮やかに私の目に残つてゐる事が二つある。 何方(どつち)が先で、何方が後だつたのか、明瞭(はつきり)とは思出し難(にく)い。が私は六歳で村の小学校に上つて、二年生から三年
文字遣い
新字旧仮名
初出
「啄木全集 第一巻 小説」新潮社、1919(大正8)年4月21日
底本
- 石川啄木全集 第三巻 小説
- 筑摩書房
- 1978(昭和53)年10月25日