パリのあき
巴里の秋

冒頭文

セーヌの河波(かわなみ)の上かわが、白(しら)ちゃけて来る。風が、うすら冷たくそのうえを上走り始める。中の島の岸杭がちょっと虫(むし)ばんだように腐(くさ)ったところへ渡り鳥のふんらしい斑(まだら)がぽっつり光る。柳(やなぎ)が、気ぜわしそうにそのくせ淋(さみ)しく揺(ゆ)れる。橋が、夏とは違ってもっとよそよそしく乾くと、靴(くつ)より、日本のひより下駄(げた)をはいて歩く音の方がふさわしい感じで

文字遣い

新字新仮名

初出

「週刊朝日」1933(昭和8)年10月15日号

底本

  • 愛よ、愛
  • パサージュ叢書、メタローグ
  • 1999(平成11)年5月8日